海外の投資ニュースレターで「AIの電力危機」という話を読んだ。データセンターの電力需要が急増しているという話は前にも書いたことがあったが、今回の記事はもう一段踏み込んでいて、「発電」より「送電網」の方が深刻なボトルネックになりつつある、という内容だった。調べていくと、この話は海外だけの問題ではなく、日本でもすでに現実の摩擦が起き始めていることが分かった。
米国データセンター電力需要は2年で倍増の見通し
ゴールドマン・サックスの試算によると、米国のデータセンター電力需要は2025年の約31ギガワット(GW)から2027年には66GWまで拡大するという。わずか2年で倍以上だ。さらに新しい見通しでは、2030年までに約125GWのデータセンター容量が整備され、そのために必要な電力は約108GWにのぼるとされている。マッキンゼーはさらに強気で、2030年までに年率約27%で需要が拡大し、121GWのITロード(実際にサーバーが使う電力)に達すると見積もっている。米エネルギー省の試算では、データセンターが米国の総電力消費に占める割合は2023年時点で約4.4%だったが、2030年には11.8%、高いシナリオでは15.3%まで上昇するという。
本当のボトルネックは「発電」より「送電網」
ここが今回一番面白いと思ったポイントだ。AIの電力需要の話は「発電所を増やせばいい」という単純な話ではない。米エネルギー省によると、米国の送電線・大型変圧器の70%以上がすでに築25年を超えている。米国の電力網の多くは1960〜1970年代に建設され、想定耐用年数はおよそ40〜50年。つまり、生成AIという歴史上最も急激な電力需要の増加が、すでに寿命に近づいているインフラの上に乗っかろうとしている状態だ。長年電力需要がほとんど伸びなかったため、電力会社側も送電網や変電設備に大きな投資をする動機が薄かった。そのツケが、AIブームのタイミングで一気に表面化している。
日本でも「雑木林」を巡って同じ摩擦が起きていた
海外だけの話だと思っていたら、日本でもすでに似た構図の摩擦が起きていることを知った。埼玉県川越市では、1980年に「ふるさとの緑の景観地」に指定された歴史ある雑木林(約17.7ha)を、データセンター集積地に転換する地区計画が進んでいる。2026年8月末の県審議会では、「住民や関係者への説明が自治会ルートに偏っていたのではないか」「生物多様性への配慮が不十分ではないか」といった指摘が専門家から相次いだという。
東京・江東区でも、データセンター建設計画に対して住民の反対運動や建築確認取り消しを求める提訴が起きており、区は2026年2月に「建設計画の早期周知」を義務付ける指導要綱を施行した。データセンター先進地とされる千葉県印西市でも、駅周辺や住宅地近くでの新規建設が増えるにつれ、住民の懸念が強まっている。ある計画では、非常用発電機のための重油120万リットルの貯蔵や、1万2000世帯分に相当する電力使用量が問題視されているという。「AIは電気を大量に使う」という話が、もはや遠い海外のニュースではなく、自分たちの生活圏の話になりつつあるのを感じた。
アメリカでは11月の中間選挙の争点にも
アメリカではこの摩擦がすでに政治問題化している。2026年11月の中間選挙(連邦議会上下院・36州の知事選)を前に、「データセンター建設の是非」が争点の一つとして浮上しているという。オハイオ州やイリノイ州など10州以上で、データセンター向けの税優遇措置を廃止する動きが出ている。ある試算では、計画中のデータセンター7棟だけで年間6800万トンのCO2を排出する計算になり、これはガソリン車1500万台分の年間排出量に相当するという。
投資家目線:注目はグリッド(送電網)インフラ株
この「発電より送電網がボトルネック」という視点で見ると、データセンター運営企業やAI半導体だけでなく、電力網そのものを更新する企業群にも投資機会がありそうだ。その記事で紹介されていたのは、送電網インフラ関連企業に分散投資するETF「GRID」(First Trust NASDAQ Clean Edge Smart Grid Infrastructure Index Fund)。運用資産は約120億ドル、経費率0.56%で、約120銘柄に投資している。上位保有銘柄には、電力分配・データセンター電力管理を手がけるシュナイダーエレクトリック(約9%)、配電機器のイートン(約9%)、高圧送電線や変電所を実際に建設するクアンタ・サービシズ(約8%)などが並ぶ。特にクアンタ・サービシズは「技術を作る側」ではなく「実際にインフラを建設する側」という点で、今回のテーマにぴったりの立ち位置だと感じた。
自分のポートフォリオとの接点
自分はAEP(アメリカン エレクトリック パワー、+14%)やEIX(エジソン インターナショナル、+18%)といった電力会社株を保有しているが、これらは「発電・供給する側」の企業だ。今回調べて分かったのは、その先にある「送電網を作る・更新する側」の企業群にも、別の投資の切り口があるということ。同じ「AIと電力」というテーマでも、発電会社・送電網インフラ・データセンター不動産(REIT)と、レイヤーによって恩恵を受ける企業が違う。この構造を意識しておくと、一つのテーマでも複数の角度から関わり方を考えられそうだ。
まとめ
AIの電力需要爆発というテーマは、「発電所を増やせば解決する」という単純な話ではなく、老朽化した送電網という見えにくいボトルネックが本質にある。そしてこの摩擦は海外だけでなく、埼玉や東京といった身近な場所でもすでに現実の問題として起き始めている。投資テーマとして面白いだけでなく、自分たちの生活圏にも直接関わってくる話として、今後も追いかけていきたい。
💡 補足
・GRID(First Trust NASDAQ Clean Edge Smart Grid Infrastructure Index Fund)は、電力網の近代化・送電網・変電設備・スマートエネルギーインフラに関わる企業に投資するテーマ型ETF
・「ネーチャー・ポジティブ」とは、生物多様性の損失に歯止めをかけ、回復に向かわせるという世界的な政策目標を指す言葉。日本でも2023年以降、国や自治体の計画に取り入れられ始めている
📊 加藤智也の分析メモ
AI関連の投資というと、どうしてもNVDAのような半導体銘柄やデータセンター運営会社に目が行きがちだが、「電気を運ぶ・支える」という地味なレイヤーにこそ、まだ市場が織り込みきれていない機会があるのかもしれないと感じた。中部電力・関西電力・AEPといった電力会社株に加えて、送電網インフラという新しい切り口を知れたのは今回の収穫だった。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・ETFへの投資を推奨するものではありません。データセンター開発計画の内容は2026年9月時点で報道されている情報に基づいており、今後変更される可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。


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