9月のレギュラーガソリンの全国平均価格を週ごとに並べてみると、7日が170.0円、14日が169.9円、28日が170.2円。ほとんど動いていない。一方で同じ時期、原油価格は1年前より4割以上高い水準にあった。原油は高いのに、ガソリンの値札は170円から動かない。最初にこの数字を並べたとき、正直「何かがおかしい」と思った。
答えは単純で、170円は市場が決めた値段ではなく、政府が補助金で「170円になるように」押さえ込んでいる値段だ。今回は、この補助金がなかったら本当はいくらなのか、そして補助金がいつまで続くのかを調べてみた。
なぜガソリンは「171円」にならないのか
2026年3月19日、政府はガソリン補助金(燃料油価格の激変緩和措置)を再開した。今回の仕組みは「全国平均で170円を超える分を、石油元売り会社に全額補助する」というものだ。補助は元売りに支払われ、そこから卸値を通じて店頭価格に反映される。
つまり、原油がいくら上がっても、170円を超えた分は補助金が埋める。値段が170円前後に張り付いて見えるのはそのためだ。補助の単価は毎週見直されていて、9月17日〜30日分は1リットルあたり51.0円と過去最高を記録した。10月1日〜7日分は50.7円になっている。
9月28日時点の店頭価格と、補助金がなかった場合の価格を並べるとこうなる。
| 燃料 | 実際の全国平均(9/28) | 補助がなかった場合 |
|---|---|---|
| レギュラーガソリン | 170.2円 | 221.2円 |
| 軽油 | 159.5円 | 210.5円 |
| 灯油 | 141.0円 | 192.0円 |
ガソリンの「本当の値段」は221円台。私たちが毎週見ている170円は、いわば値札に貼られた割引シールの後の値段だ。
実は年初には「155円台」まで下がっていた
ここで一つ思い出しておきたいことがある。2025年12月31日、ガソリンの暫定税率(1リットルあたり25.1円)が廃止された。1974年から約51年続いた上乗せ税率がついになくなり、全国平均は2025年12月22日の158.0円から、2026年1月5日には155.7円まで下がった。
ところが2月28日、米国とイスラエルがイランを攻撃したことで状況が一変する。世界の石油貿易の2割超が通るホルムズ海峡の通航が激減し、ブレント原油は3月下旬に一時118ドル前後まで上がった。暫定税率の廃止で下がった分は、ほぼ帳消しになった。補助金の再開は、その直後の3月19日だった。
整理すると、今のガソリン1リットルには「廃止された暫定税率25.1円」と「補助金51円前後」を合わせて、70円を超える下支えが入っている計算になる。もちろん減税と補助金は性質が違うけれど、どちらも「値札を下げるために国が引き受けているお金」であることに変わりはない。
補助金の財源は「10月末まで」しか確保されていない
気になるのは、この補助金がいつまで続くのかだ。3月以降、既存の基金と予備費を合わせて1兆円を超える財源が用意されてきた。それでも足りず、政府は9月1日の閣議で予備費から6,160億円の支出を決め、そのうち6,136億円を燃料油の補助金の基金に積み増した。
経済産業省によると、この積み増しでまかなえるのは10月末までの必要額だ。中東産の指標であるドバイ原油が1バレル95ドル前後で推移しても、基金が持つように計算した金額だという。裏を返せば、11月以降の分は今のところ決まっていない。補助金の継続・縮小・終了の時期も「未定」のままだ。
電気・ガス料金の補助は、9月使用分で一足先に終わっている(電気・ガス補助金の終了で世帯別にいくら増えるか試算した記事)。ガソリンも同じ道をたどる可能性は、頭の片隅に置いておいた方がいいと思う。
補助がなくなったら、毎月いくら増えるか
9月後半の補助単価51.0円がそのままなくなったと仮定して、月の給油量ごとに負担増を計算してみた。
| 月の給油量 | 月あたりの負担増 | 年間の負担増 |
|---|---|---|
| 30L(週末だけ乗る) | 約1,530円 | 約1万8,360円 |
| 50L(買い物+たまの遠出) | 約2,550円 | 約3万600円 |
| 80L(毎日の通勤) | 約4,080円 | 約4万8,960円 |
| 100L(長距離通勤) | 約5,100円 | 約6万1,200円 |
| 200L(2台持ち・夫婦で通勤) | 約1万200円 | 約12万2,400円 |
灯油も忘れてはいけない。補助がなくなれば1リットルあたり51円上がる計算なので、18リットルのポリタンク1缶で約918円の差になる。灯油を使う地域では、これから冬にかけてじわじわ効いてくる。
加藤智也の視点:我が家は「200L」の当事者だった
表の一番下の「200L」は、実はうちのことだ。我が家は車が2台あって、夫婦ともに通勤で使っている。給油量はそれぞれ月80〜100Lくらいで、2人合わせると月200L弱になる。この試算どおりなら、補助金がなくなった瞬間に家計の燃料代は月1万円、年間で12万円ほど増えることになる。計算してみて、さすがに少し背筋が伸びた。
ちなみに通勤分は会社から交通費が出ていて、それを現金でもらいつつ、給油はクレジットカードで払っている。交通費は現金で入り、ガソリン代はカードのポイントになる。我ながらちゃっかりしていると思う(笑)。
そこで、ついでにポイントの計算もしてみた。還元率1%のカードで200Lを入れた場合、今の170.2円なら月に約340ポイント。補助がなくなって221.2円になると、約442ポイントに増える。補助がなくなるとポイントは月100ポイントほど増えて、ガソリン代は1万円以上増える。ポイントで取り返すのは、どう考えても無理だった。クレジットカードのポイントの仕組みについては、年会費無料の優秀クレカTOP3の記事やクレカ会社が年会費無料でも儲かる理由の記事にも書いたので、あわせて読んでみてほしい。
もう一つ気づいたのは、通勤手当が「ガソリン価格と連動しているとは限らない」という点だ。会社によって決め方は違うけれど、マイカー通勤の手当は通勤距離をもとに決めているところが多い。ガソリンが50円上がっても、手当が翌月から自動で増えるとは限らない。会社員でも、燃料代の上昇は家計で受け止めることになりやすい。
値札が動かないことの「副作用」
補助金のおかげで家計が助かっているのは間違いない。ただ、値段が170円で止まっていることには副作用もあると思う。
本来、ガソリンが高くなれば「少し乗る回数を減らそう」「燃費のいい車にしよう」という行動の変化が起きる。でも値札が動かなければ、そういう判断のきっかけが生まれにくい。原油が高いという情報が、値段を通じて私たちに届かなくなっている状態だ。
しかも補助金の原資は税金や国の予算だ。レシートに載らない51円は、どこかで誰かが負担している。極端に言えば、未来の自分たちが払っている面もある。
原油高は家計だけの問題でもない。燃料や物流のコストを通じて、食品や日用品など物価全体を押し上げる。物価が上がれば、金利や為替にも影響が広がっていく。ガソリンの値札の裏側は、思った以上に広い範囲とつながっている。原油と家計の関係は、以前にホルムズ危機と値上げの波の記事でも書いている。
この先どうなる? 考えられる3つのシナリオ
補助金の行方は、中東情勢と政府の判断しだいで変わる。断定はできないけれど、考えられるパターンを整理しておく。
- シナリオ1:延長される 11月以降も170円程度を維持する。この場合、追加の財源(予備費や補正予算)が必要になる
- シナリオ2:段階的に縮小される 目標価格を170円から引き上げるなどして、少しずつ補助を減らす。上限価格の見直しは、政党間でも議論が出ている
- シナリオ3:原油が下がって自然に縮小する 中東情勢が落ち着いて原油価格が下がれば、170円を超える部分が小さくなり、補助金も自然と減っていく
どのシナリオになっても言えるのは、「170円がずっと続く前提」で家計を組むのは少し危ういということだ。我が家の場合、月1万円の増加に耐えられるかを一度シミュレーションしておくだけでも、いざというときに慌てずに済むと思っている。
💡 補足
・補助単価は毎週見直されていて、資源エネルギー庁が翌週分の単価を公表している
・軽油の暫定税率(17.1円)は2026年4月1日に廃止されている
・ホルムズ海峡は世界の石油貿易の2割超が通る海上輸送の要所で、ここが止まると日本を含むアジアの輸入国が大きな影響を受ける
・マイカー通勤の通勤手当は、所得税が非課税になる上限額が片道の通勤距離ごとに決まっている
📊 加藤智也の分析メモ
暫定税率の廃止で一度は155円台まで下がったのに、中東情勢でそれが帳消しになり、今度は補助金で170円に押さえ込んでいる。この1年のガソリン価格は、値段そのものより「誰がいくら負担しているか」が大きく入れ替わってきた1年だったと感じる。我が家のように車が生活の足になっている家庭ほど、11月以降の補助金の扱いは他人事ではない。値札だけを見て安心せず、補助がなくなった場合の数字を一度計算しておくのがおすすめだ。
※本記事の価格・補助単価は、資源エネルギー庁の公表情報および報道をもとにした2026年10月1日時点の情報です。試算は補助単価51.0円/Lがそのままなくなると仮定した概算で、実際の価格は地域・店舗・原油相場によって異なります。今後の補助金の扱いは政府の発表をご確認ください。


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