食品値上げ「ピーク越え」は朗報か——10月3,153品目、年間2万品目超、値上げの理由は「円安」から「人件費」へ

生活とお金

「値上げラッシュはピーク越え」。帝国データバンクが9月30日に発表した調査の見出しを見て、少しほっとした人も多いと思う。でも中身を読んでいくと、安心するのはまだ早いことが分かってきた。ピークを越えたのは「値上げの数」であって、値段そのものは山頂に置かれたまま。しかも、値上げの理由が以前とは大きく変わってきている。

10月の値上げは3,153品目、年間では2年連続の2万品目超え

帝国データバンクが主要な食品メーカー195社を対象に調べた結果、10月の飲食料品の値上げは3,153品目だった。値上げ1回あたりの平均値上げ率は10%。9月の4,965品目と合わせると、9〜10月の2カ月だけで8,000品目を超える。単月で2カ月連続3,000品目を超えたのは、2023年6〜7月以来3年3カ月ぶりだ。

2026年の値上げ品目は、12月までに判明している分だけで2万187品目。2025年の2万609品目に続いて、2年連続で年間2万品目を超えた。

一方、11月に判明している値上げは1,469品目、12月は132品目。9〜10月と比べると大きく減るため、帝国データバンクは「2026年内の値上げラッシュは10月をピークに一旦は収束する」と見ている。ただし11月の1,469品目は、前年同月の約10倍の規模だ。「落ち着く」と言っても、去年の感覚よりはずっと多い。

10月に一番値上がりするのは「お酒と飲み物」

10月の値上げを分野別に見ると、最も多いのは「酒類・飲料」の1,399品目だった。酒類・飲料が全分野で最多になるのは1年ぶり。酒税の改定の影響を受けた発泡酒や第三のビール類、焼酎などのアルコール類、清涼飲料水まで、幅広い商品が対象になっている。

分野 10月の値上げ品目数 主な商品
酒類・飲料 1,399品目 発泡酒・第三のビール、焼酎、清涼飲料水など
調味料 820品目 マヨネーズ、醤油、たれ類など
加工食品 668品目 缶詰、冷凍・チルド食品、乳幼児向け食品など
菓子 165品目 —
乳製品 101品目 —

年間で見ると、最も多いのは冷凍食品やパックご飯などの「加工食品」で6,961品目。前年(4,791品目)を4割以上も上回っている。次いで調味料(6,250品目)、酒類・飲料(3,309品目)と続く。毎日の食卓に並ぶものほど、値上げが広がっているのが分かる。

意外な事実:値上げの理由から「円安」が消えつつある

今回の調査で私が一番驚いたのは、値上げの「理由」の移り変わりだった。帝国データバンクは、値上げした品目がどんな理由で値上げしたかを集計している(1つの品目に複数の理由が重なることがある)。過去3年分を並べると、こうなる。

値上げの理由 2024年(年間) 2025年(年間) 2026年(9月末時点)
原材料高 92.2% 96.1% 91.3%
物流費 68.1% 78.6% 66.0%
エネルギー 60.6% 63.8% 63.8%
包装・資材 68.5% 62.7% 63.7%
人件費 26.5% 50.3% 51.1%
中東情勢 — — 27.8%
円安 28.1% 12.4% 8.1%

ドル円は今も1ドル157円台の円安水準にある。それなのに、値上げの理由に「円安」を挙げた割合は、2024年の28.1%から2026年は8.1%まで下がった。代わりに大きく増えたのが「人件費」で、2年で26.5%から51.1%へとほぼ倍になっている。そして2026年には、「中東情勢」という新しい理由が27.8%で一気に登場した。

円安が値上げの理由に挙がりにくくなったのは、1ドル150円を超える水準がすっかり当たり前になって、「新たに円安が進んだから値上げする」という場面が減ったからだと考えられる(これは私の解釈で、調査が理由を説明しているわけではない)。その一方で、人手不足による人件費の上昇や、中東情勢による原油・ナフサ(プラスチックなどの原料)の高騰が、値上げの主役に入れ替わってきた。

なぜ「人件費が理由の値上げ」は戻りにくいのか

ここがこの記事で一番伝えたいポイントだ。値上げの理由が変わると、「その値上げがいずれ元に戻るかどうか」も変わってくる。

  • 円安や原油高が理由の値上げ:為替が円高に戻ったり、原油価格が下がったりすれば、コストが下がる可能性がある(実際に値下げされるかは別の話だけど)
  • 人件費が理由の値上げ:一度上がった賃金が下がることはほとんどない。人件費を理由にした値上げは、元に戻る見込みが小さい

実際、日銀の短観では、従業員が足りているかを示す雇用人員判断DIがマイナス38と、バブル期に迫る人手不足が続いている(日銀短観の記事)。10月からは最低賃金も全国平均1,177円に引き上げられた(最低賃金の記事)。働く人の給料が上がるのは良いことだけど、それは同時に、モノの値段が下がりにくくなるということでもある。

つまり、値上げの主役が「海外から来る一時的なコスト」から「国内に定着したコスト」に移ってきている。「ピーク越え」のニュースを見ても、値段が元に戻ることを期待しにくい理由はここにある。

加藤智也の視点:お酒好きにはなかなかつらい10月

個人的に、今回の調査で一番気になったのは「酒類・飲料が最多」という部分だ。私はお酒が大好きで、基本はビールなど。最近はハイボールやワイン、日本酒も飲むようになった。そんな私にとって、10月の値上げの主役がお酒というのは、なかなかつらいニュースだった(笑)。

お酒は、毎日の楽しみとして「なかなか減らせない出費」の代表だと思う。だからこそ値上げの影響を受けやすいし、家計の中でじわじわ効いてくる。自分の家計を振り返ると、こういう「好きだからやめられない出費」こそ、値上げのタイミングで一度見直してみる価値がありそうだ。たとえば、普段よく飲むものはまとめ買いのタイミングを考える、ポイント還元の大きい日やカードを使う、といった小さな工夫は今日からでもできる(年会費無料の優秀クレカTOP3の記事)。

そしてもう一つ。人件費を理由にした値上げが増えているということは、私たちの給料が上がっていることの裏返しでもある。会社員として給料をもらう側にとって、賃上げはうれしいことだ。でも、そのぶん買い物の値段も上がっていく。給料と物価の「追いかけっこ」の中にいることを、この表を見て改めて実感した。

この先どうなる? 考えられる3つのシナリオ

帝国データバンクは、2027年にかけても断続的な値上げが続くと予想している。そのうえで、考えられるパターンを整理しておく。

  • シナリオ1:ゆるやかな値上げが続く 9〜10月のような大きな山はなくなるが、人件費や物流費の上昇を背景に、毎月一定数の値上げが続く
  • シナリオ2:中東情勢しだいで再加速 帝国データバンクは、中東情勢の悪化による「ナフサショック」で包装資材や物流のコストが上がったと指摘している。情勢がさらに悪化すれば、値上げのペースが再び速まる可能性がある
  • シナリオ3:一部で物価上昇が鈍る 米の価格の下落など、一部では物価上昇の鈍化も見られる。原油価格が落ち着けば、エネルギーや包装資材を理由とした値上げは減っていくかもしれない

どのシナリオになっても、人件費を理由にした値上げは簡単には消えない。「値上げがピークを越えた」というニュースは、「これ以上はあまり上がらない」という意味であって、「元の値段に戻る」という意味ではない。この違いを知っておくだけでも、家計の見通しの立て方は変わってくると思う。

💡 補足

・帝国データバンクの調査は、全国展開する主要な食品メーカー195社の家庭用商品が対象。年に複数回値上げした品目は、それぞれ別の品目として数えている
・値段は据え置きで内容量を減らす「実質値上げ」も集計に含まれている
・値上げの理由の割合は品目数ベースで、1つの品目に複数の理由が重なることがあるため、合計は100%を超える
・帝国データバンクの次回(11月分)の発表は10月30日の予定

📊 加藤智也の分析メモ

値上げの「数」より、値上げの「理由」の表の方がずっと面白かった。円安が理由の値上げは減り、人件費と中東情勢が理由の値上げが増えている。これは、日本の物価上昇が「外から来るもの」から「中で回り始めたもの」に変わりつつあるサインだと私は感じた。投資の視点で言えば、値上げをしてもお客さんが離れない、価格決定力のある企業の強さがますます大事になる局面だと思う。お酒好きとしてはため息が出る10月だけど、家計の見直しのきっかけにしたい。

※本記事は帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査(2026年10月)および報道をもとにした2026年10月1日時点の情報提供を目的としており、特定の銘柄・金融商品への投資を推奨するものではありません。値上げの理由の解釈には筆者の個人的な見方を含みます。

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