海外の技術系サイトを読んでいたら、「量子コンピュータ」というテーマが、SFの話ではなくかなり現実的な投資テーマになりつつあることに気づいた。しかも調べているうちに、想像していたよりずっと話が進んでいることが分かって、正直驚いた。
量子コンピュータは何が違うのか
普通のコンピュータが扱う「ビット」は0か1のどちらかしか取れないが、量子コンピュータの「量子ビット」は0と1が同時に存在するような状態を扱える。これを大量に組み合わせることで、膨大な組み合わせを一気に探索できるのが強みだ。創薬(複雑な分子の解析)、電力網の最適化、金融のリスク計算、自動運転、新素材の開発、物流の配送ルート最適化など、応用範囲は幅広い。すでにIBM・Alphabet・Amazonといった大手が、クラウド経由で量子コンピュータを時間単位でレンタルできるサービスを提供しているというから、研究段階を超えて実用フェーズに入りつつあるのは間違いなさそうだ。
米政府が量子企業に直接出資
調べていて驚いたのが、米商務省がCHIPS法(半導体関連の産業振興法)の資金を使い、D-Wave・Rigetti・Quantinuumという量子コンピュータ企業3社にそれぞれ1億ドル、合計3億ドルの助成を行い、その条件として非支配的な株式(出資持分)を取得したというニュースだ。単なる補助金ではなく政府が「株主」になるという踏み込んだ支援で、発表を受けて3社の株価はいずれも上昇し、Rigettiは+7.4%、D-Waveは+5.4%、Quantinuumは+3.9%といった値動きになったという。国が資金と信用の両方を後押しする構図は、この分野への本気度を感じさせる。
本題は「今の暗号化データが将来解読される」リスク
ただ、今回一番気になったのはここから先の話だ。量子コンピュータが実用レベルまで進化すると、現在インターネットや銀行、防衛システムなどを守っている暗号技術が突破される可能性がある。すでにセキュリティ業界では「Harvest Now, Decrypt Later(今のうちに盗んで、あとで解読する)」という攻撃手口が現実の脅威として語られている。攻撃者が暗号化された通信データを今のうちにコピーして保存しておき、将来、解読可能な量子コンピュータが登場した時点で一気に解読する、という考え方だ。医療記録や企業秘密のように「何年も先まで秘密にしておきたい情報」ほど、今この瞬間からリスクにさらされていることになる。
思ったより早く進んでいた「解読に必要な量子ビット数」の見積もり
この話がどれくらい現実味があるのか気になって調べてみたところ、想像以上に進んでいて驚いた。よく使われる暗号方式であるRSA-2048を量子コンピュータで解読するために必要な量子ビット数の見積もりは、2019年の研究では約2,000万個とされていた。それが2025年5月の研究では「100万個未満」まで大幅に縮小し、さらに2026年2月に発表された新しいアーキテクチャでは「10万個未満」まで下がってきているという。実際に稼働する量子コンピュータの量子ビット数はまだそこまで到達していないが、必要とされる規模が数年でここまで小さくなっているのを見ると、「まだ先の話」と楽観視するのは危ういと感じた。
一方で対策も進んでいる。米国立標準技術研究所(NIST)は2024年8月、量子コンピュータによる攻撃にも耐えられるとされる「耐量子暗号」の標準規格を正式に発表済みだ。企業側も、長期間守る必要があるデータから優先的にこの新しい暗号方式へ切り替える動きを始めているという。
投資家としてどう見るか
正直なところ、自分は量子コンピュータ関連の個別銘柄は現時点で保有していない。値動きを見ても、政府の出資発表一つで1日に数%動くようなボラティリティの高さがあり、技術の将来性への期待が先行して株価が形成されている段階だと感じる。半導体関連のNVDA(エヌビディア)は保有しているので、AI・先端コンピューティング全般の値動きには間接的に触れているが、量子コンピュータ専業の銘柄に手を出すかどうかは、もう少し事業の実態(受注・収益化のペース)が見えてから判断したいと思っている。
まとめ
量子コンピュータは創薬や物流といった「分かりやすい恩恵」ばかりが語られがちだが、同時に「今の暗号が将来解けなくなる保証はない」というセキュリティ上の裏返しのテーマでもある。米政府が実際に出資に踏み込み、暗号解読に必要な計算資源の見積もりが年々縮小しているという事実を知ると、遠い未来の話として片付けるのは早計だと感じた。投資対象として追いかけるにせよ、生活者として自分のデータの守られ方を意識するにせよ、頭の片隅に置いておきたいテーマだと思う。
💡 用語の補足
「Harvest Now, Decrypt Later」は、量子コンピュータがまだ実用化されていない現時点でも、暗号化された通信・データを盗んで保存しておき、将来量子コンピュータで解読するという攻撃の考え方。「耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography)」は、量子コンピュータによる解読にも耐えられるように設計された新しい暗号方式で、米NISTが2024年8月に世界に先駆けて標準規格(FIPS 203・204・205)を正式発表している。
📊 加藤智也の分析メモ
今回調べていて一番印象的だったのは、「暗号解読に必要な量子ビット数」の見積もりが、2019年の2,000万個から2025年に100万個未満、2026年には10万個未満へと、わずか数年で急速に縮小していたことだ。ニュースの見出しだけを追っていると気づきにくいが、元になった研究論文まで遡ってみると、技術の進歩スピードが想像以上に速いことが分かる。投資判断でもニュースの見出しだけで終わらせず、できるだけ元データに近いところまで確認する癖をつけたいと改めて思った。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品・銘柄・企業への投資を推奨するものではありません。技術動向・企業の財務状況等は2026年9月時点の情報に基づいており、今後変更される可能性があります。投資判断は自己責任で行ってください。


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