日本人がインフレから資産を守る方法——「物価連動国債」が個人にはほぼ買えない国の事情

日本人がインフレから資産を守る方法——「物価連動国債」が個人にはほぼ買えない国の事情 - 加藤智也ノートのアイキャッチ画像 マクロ・資産防衛

「政治家は物価を下げると公約するが、実際にはインフレは止まらない」——そんな話を見て、ふと日本の状況はどうなっているのか気になった。調べてみると、身近な日用品の値上がりに加えて、日本には米国のような分かりやすいインフレヘッジ商品が個人にはほとんど開かれていない、という意外な事実にたどり着いた。

日用品の値上がりが二桁に達している

総務省が発表した2026年8月の消費者物価指数によると、総合指数は前年同月比+1.9%、生鮮食品を除く指数(コアCPI)は+1.7%だった。数字だけ見るとそこまで極端には見えないが、品目別に見ると話は変わってくる。ティッシュペーパーは前年比+10.5%(7月は+1.7%)、トイレットペーパーも+10.5%(7月は+0.9%)、ラップは+10.2%、ポリ袋に至っては+23.7%と、家事用消耗品を中心に急激な値上げが広がっている。携帯電話機も+10.2%だ。日常的に使うものほど、体感的な値上げ幅が大きいという実感は、あながち間違っていなかったようだ。

年末にかけて、さらに物価は上がる見通し

先行きも楽観できない。電気・ガス料金への政府補助が11月に終了する予定で、これまで物価を抑えていた効果が消える。加えて、既往の燃料価格上昇が電気・ガス料金に遅れて反映されることや、中東情勢による原油高が輸送費・包装資材のコストに転嫁され続けていることもあり、エコノミストの間では「2026年末から2027年初にかけて、コアCPIが前年比3%を上回る」という予測も出ている。

実質賃金は4年連続マイナス

物価が上がっても、賃金がそれ以上に伸びていれば実質的な負担は変わらない。しかし2025年通年の実質賃金指数は前年比-1.3%で、4年連続のマイナスだった。2026年に入ってからは春闘の結果や夏のボーナス増加を背景に一時的にプラス圏に転じたが、原油価格が高止まりすれば、2026年度全体では再びマイナスに転落するリスクが指摘されている。物価は上がる、賃金は追いつかない、という状況が続いているのが実情のようだ。

日本にも「物価連動国債」はあるが、個人はほぼ買えない

ここまで調べていて、一番意外だったのがこの点だ。米国には、元本がCPI(消費者物価指数)に連動して増減する「TIPS(物価連動国債)」という商品があり、個人が証券会社やETF経由で気軽に購入できる。日本にも同じ仕組みの「物価連動国債」は存在し、2015年には個人保有も制度上解禁されている。

ところが実態を調べてみると、この物価連動国債は個人向けにはほとんど流通していない。政府は主に機関投資家をターゲットに発行しており、銀行や証券会社での個人向け販売体制が十分に整っていないためだ。市場での流通量自体も少なく、価格形成も複雑という事情もある。つまり、制度としては「買えるはず」なのに、実際に個人が直接アクセスできるルートはほぼ用意されていない、というのが日本の実情だった。

「ほぼ買えない」の”ほぼ”の中身を調べてみた

ここまで「個人はほぼ買えない」と書いたが、”ほぼ”ということは、まったくのゼロではないはずだ。実際にSBI証券・楽天証券といった主要ネット証券を調べてみると、物価連動国債という現物の債券そのものを、新発・既発どちらの形でも個人向けに直接販売している窓口は、やはり見当たらなかった。政府が発行する国債のうち、個人向けに大々的に売られているのは「個人向け国債」(変動10年・固定5年・固定3年)であり、物価連動国債はあくまで金融機関などプロ向けの商品という位置づけが変わっていないようだ。

では”ほぼ”の部分、つまり実質的に買う方法は何かというと、答えは「投資信託を経由した間接保有」だった。代表例が大和アセットマネジメントの「日本物価連動国債ファンド」で、実質信託報酬は0.594%、純資産総額は115億円(2026年6月時点)、新NISAの成長投資枠の対象にもなっている。ネット証券であれば100円という少額から購入でき、積立設定も可能だ。「eMAXIS国内物価連動国債インデックス」のような同種のインデックスファンドも存在する。つまり、現物の物価連動国債を証券会社の窓口で直接注文することはできないが、投資信託というワンクッションを挟めば、少額から誰でもアクセスできる状態にはなっている。

個人向け国債(変動10年)は、半年ごとに適用利率が見直される仕組みで、金利上昇局面には強いが、あくまで「金利」に連動する商品であり、物価そのものに連動するわけではないため、急激なインフレには追いつかない可能性がある。

より現実的な選択肢としては、上記の物価連動国債ファンドに加えて、新NISAでの株式・投資信託(オルカンやS&P500など)、金(ゴールド)、そして米国のTIPS ETF(VTIPなど)を日本の証券会社を通じて購入する方法が挙げられる。特に株式や金は、長期的にインフレに強い資産として位置づけられており、日本の個人投資家にとっては、物価連動国債(の投資信託)よりもむしろアクセスしやすいインフレヘッジ手段になっているのが実態だ。

投資家目線:自分のポートフォリオを振り返る

自分は米国株・米国ETFの比重が高いポートフォリオを組んでいるが、これも結果的にはインフレヘッジの役割を果たしている部分がある。円建ての現金や預金だけで資産を持っていると、日本の物価上昇率の分だけ実質的な価値が目減りしていく。株式や外貨建て資産、金といった「価格が物価とともに動きやすい資産」を組み合わせておくことが、日本では物価連動国債の代わりになる現実的な防衛策なのだと、今回調べて改めて感じた。

まとめ

日用品の二桁値上げ、4年連続の実質賃金マイナス、そして年末に向けてさらに物価が上がる見通し——インフレは日本の家計にとってもすでに他人事ではない。米国のようにTIPSを手軽に買えるわけではない日本では、物価連動国債を待つよりも、株式・金・外貨建て資産といった手段を組み合わせて、自分なりのインフレヘッジを作っておく必要がありそうだ。

💡 補足

・「コアCPI」は生鮮食品を除く消費者物価指数のことで、天候による価格変動が大きい生鮮食品を除くことで、物価の基調的な動きを見るための指標として使われる
・「物価連動国債」は、元本(額面)が消費者物価指数の動きに連動して増減する国債。物価が上がれば受け取れる利息・償還額も増えるため、インフレヘッジ資産として位置づけられている

📊 加藤智也の分析メモ

「日本にも物価連動国債があるはず」と思って調べ始めたら、制度としては存在していても個人が実際に買えるルートがほとんどないという事実にたどり着いた。当たり前のようにある制度でも「実際にアクセスできるか」まで確認しないと、机上の空論で終わってしまうのだと実感した。インフレヘッジは、使える手段の中で組み立てるしかないのだと思う。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。物価・賃金統計は2026年9月時点で公表されている情報に基づいており、今後の統計改定や経済情勢により内容が変わる可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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