先日、日銀が政策金利を1.0%から1.25%に引き上げたニュースを取り上げて、「利上げは銀行にとって追い風になる」という話を書いた。ただ、その後に地銀の決算データを詳しく見ていくと、「銀行なら一律に儲かる」というほど単純な話ではないことが分かってきた。同じ利上げの恩恵を受けながら、明暗がはっきり分かれている地銀があるようだ。
地銀全体では27.7%の増益
日銀は2024年3月にマイナス金利を解除して以降、段階的に利上げを進めてきた。東洋経済が地銀全95行の決算を、利上げ前の2024年3月期と直近の2026年3月期で比較したところ、地銀合算の「資金利益」(貸出金利息や有価証券利息から預金利息などを差し引いたもの)は、3兆7,947億円から4兆8,476億円へと、2年間で27.7%も増加していた。
この背景には、銀行が日銀に預けている当座預金(超過準備)への付利もある。2026年4月時点で、付利対象の日銀当座預金残高は地方銀行全体で60兆円程度あり、政策金利が1%まで上がれば、地銀全体で年間およそ6,000億円もの預け金利息収入を日銀から得られる計算になるという。
でも、約2割の地銀では「利ザヤ」が悪化していた
ここまでは分かりやすい追い風の話だが、実態はもう少し複雑だ。銀行の収益力を測る代表的な指標に「預貸金利ザヤ」(貸出金利回りと預金利回りの差)がある。一般に金利が上がれば、貸出金利の上昇が預金金利の上昇より先行しやすいため、この利ザヤは改善しやすい。ところが東洋経済の分析では、全国95行のうち約2割にあたる地銀で、この利ザヤがむしろ悪化していたという。固定金利型の貸出金が多くて金利を引き上げるタイミングが遅れたり、預金獲得を重視するあまり高めの預金金利を提示したりした銀行ほど、恩恵を十分に受け取れていない構図のようだ。最も利ザヤが改善したのは熊本銀行だったとされる一方、伊予銀行・足利銀行・島根銀行なども今回のランキングで名前が挙がっている。
金利が上がると、実は”含み損”のリスクも膨らむ
もう一つ見落としがちなのが、地銀が保有する有価証券(主に国債などの債券)の評価損益だ。金利が上昇すると、既存の低利率の債券は相対的に価値が下がるため、含み損が発生しやすくなる。今回の一連のランキングでは、株高で目立たなくなっているものの、地銀全体で3.5兆円規模の債券評価損が隠れているという分析もあり、一部のSBI系地銀グループには資本増強のリスクまで指摘されている。利上げが「収益の追い風」であると同時に「保有資産の逆風」にもなるという、この二面性は見落としやすいポイントだと感じた。
預金争奪戦でも明暗が分かれている
金利がある世界が戻ってきたことで、預金を巡る競争も激しくなっている。1年定期で金利1%を超える商品を打ち出す銀行が相次ぐ一方、東洋経済の分析では95行中21行で預金が減少していたという。預金基盤がもともと強い銀行はさらに預金を集めやすく、そうでない銀行は苦戦するという、こちらでも二極化が進んでいるようだ。
生活者・投資家目線:「地銀=利上げで得」と単純化しない
自分の預金先やメインバンクが地銀だという人にとって、この話は無関係ではない。同じ「利上げのニュース」でも、その銀行の収益体質によって恩恵の大きさはまったく違うし、極端な場合は経営体力への逆風にすらなり得る。投資家目線で見ても、「銀行株は利上げで儲かる」という一言で片付けず、個別行の預貸構成や有価証券含み損の状況まで踏み込んで見る必要がありそうだ。メガバンクだけでなく地銀に投資する場合は特に、この”格差”を意識しておいた方がよさそうだと感じた。
まとめ
日銀の利上げは地銀全体としては27.7%の増益という明確な追い風になっている一方、約2割の銀行では利ザヤが悪化し、有価証券の含み損リスクや預金争奪戦での劣勢を抱える銀行も存在する。「利上げ=銀行が儲かる」という単純な図式の裏には、かなりはっきりとした勝ち組・負け組の構図があった。次の利上げのニュースを見るときも、この構図を頭に入れておきたいと思う。
💡 補足
・「預貸金利ザヤ」とは、銀行が貸出で得る利回りと、預金者に支払う利回りの差のこと。この差が大きいほど銀行の収益力は高いとされる
・「有価証券評価損益」は、銀行が保有する国債などの債券を時価評価した際の含み損益のこと。金利が上昇すると既存の低利率債券の時価は下落し、含み損が発生しやすくなる
📊 加藤智也の分析メモ
前回、日銀の利上げを「銀行にとって追い風」とだけ書いたが、今回もう一歩踏み込んで調べてみると、その追い風を受け取れている銀行と、そうでない銀行がはっきり分かれていることが分かった。同じニュースでも、当事者によって受け止め方がまったく違うというのは、他のテーマでも意識しておきたい視点だと感じた。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。決算数値・ランキングは東洋経済オンライン等の報道内容に基づいており、2026年9月時点の情報です。投資判断はご自身の責任で行ってください。


コメント