9月下旬、米国の10年国債の利回りが一時5.3%前後まで上がり、2007年以来の高水準をつけた。金利が上がる理由としてよく挙がるのはインフレだ。原油高、関税、そしてFRBの利上げ。どれも間違いではない。
でも最近、もう一つ別の「犯人」が話題になっている。AI企業の借金だ。データセンターを建てるために、巨大IT企業が過去に例のない規模で社債を発行し始めている。国もお金を借りる、企業もお金を借りる。借り手が増えれば、貸す側は「もっと高い金利をくれ」と言いやすくなる。今回は、AIブームの裏側で起きているこの「借金ラッシュ」と、日本への波及を整理してみた。
ビッグテックがAIのために借金を始めた
これまでアルファベット(グーグル)やアマゾン、マイクロソフトといった巨大IT企業は、稼いだ現金で投資をまかなえる「お金持ち企業」の代表だった。ところがAIのデータセンター投資は、その現金でも追いつかない規模になってきている。
ゴールドマン・サックスの予想では、アルファベット、アマゾン、メタ、マイクロソフト、オラクルの5社の設備投資は2026年度に合計7,570億ドル規模。2027年度には約1.1兆ドルまで膨らむ可能性があるという。そして2027年には、その設備投資のうち約35%、金額にして約4,000億ドル規模を社債の発行でまかなうと見込まれている(報道によっては4,200億ドルとも)。
しかも、投資家はタダでお金を貸してくれるわけではない。AI関連企業の社債の上乗せ金利(国債との利回りの差)は約1.15%で、投資適格社債全体の約0.78%より高い水準にある。「AIへの投資が本当に回収できるのか」を見極めようと、貸す側が少し慎重になっているわけだ。
国もお金を借りている:米国の政府債務は40兆ドル超
一方で、米国政府自身もお金を借り続けている。米国の政府債務は2026年8月18日に初めて40兆ドルを超えた。この10年でほぼ倍になった計算だ。
国債を発行する政府と、社債を発行するAI企業。どちらも同じ投資家のお金を取り合っている。貸し手から見れば選択肢が増えるので、「より高い金利を払ってくれる方に貸す」となりやすい。AI企業の社債ラッシュが国債の金利を押し上げる効果は今のところ限定的と見る向きも多いけれど、規模が大きくなるほど無視できなくなる。
ちなみに、9月中旬には「10月にもFRBが追加利上げする」という見方が一時7割を超えたが、9月30日に発表された物価指標や、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の「急ぐ必要はない」という発言を受けて、10月の利上げ確率は3割台まで下がった(CME FedWatch)。利上げ観測が後退しても金利が高止まりしているのは、インフレだけでなく「借り手が多すぎる」ことも影響しているのかもしれない。
日本でも起きている「AIの借金」:ソフトバンクGの1兆円社債
この話は海の向こうだけの話ではない。日本で一番分かりやすい例が、ソフトバンクグループだ。
- 個人向け社債1兆円:2026年8月、国内の個人向け社債としては過去最大となる1兆円の社債を発行。利率は年4.3〜4.9%で、既存の社債の借り換えやAI関連の投資に充てるとされた
- ドル建てのジャンク債111億ドル:9月には、過去最大級となる111億ドル(約1兆7,500億円)の社債を海外で発行。利回りは最大9.75%で、一部はOpenAIへの追加投資に充てるという
ジャンク債とは、信用格付けが低めの会社が、そのぶん高い利回りを約束して発行する社債のこと。AIに大きく賭ける会社が、高い金利を払ってでもお金を集めている。日本の個人の預金も、その資金源の一つになっているわけだ。
日本の国の財布にも金利上昇が響き始めた
そして日本政府も、金利上昇の影響を受け始めている。財務省の2027年度予算の概算要求では、国債の元本と利息の支払いにあてる「国債費」が過去最大の36兆6,386億円になった。このうち利払い費は16兆5,888億円で、2026年度当初より27.2%も増えている。予算を組むときの想定金利も、3.0%から3.8%に引き上げられた。
日本の10年国債の利回りは9月に一時3.115%をつけ、約30年ぶりの高水準になっている。国の借金の利払いが増えれば、そのぶん他の予算を圧迫する。金利上昇は、住宅ローンを借りている家計だけでなく、国の財布にもじわじわ効いてくる。住宅ローンへの影響は、住宅ローン固定10年が「4%」の時代にの記事に書いた。
加藤智也の視点:ソフトバンクGの社債、少しだけ悩んでやめた
正直に言うと、ソフトバンクグループの個人向け社債は私も少しだけ悩んだ。年4%台の利率は、銀行預金と比べるとかなり魅力的に見える。
それでも最終的に見送ったのは、お金が長い期間ロックされるのが少し嫌だったからだ。社債は途中で売ることもできるけれど、基本的には満期まで持つ前提の商品で、そのあいだ金利が上がっても利率は変わらない。
結果的に、ソフトバンクGはその1カ月後に、ドル建てで最大9.75%という高い利回りの社債を出している。高い利回りは、それだけ「お金を集めるのが大変」というサインでもある。利率の高さだけで飛びつかず、「なぜこの会社はこの利率を払うのか」を考えるのが大事だと改めて感じた。
この先どうなる? 考えられる3つのシナリオ
- シナリオ1:AIの借金ラッシュが続き、金利が高止まり ビッグテックの社債発行が予想どおり膨らめば、国債との資金の奪い合いが続き、長期金利が下がりにくくなる
- シナリオ2:AI投資の見直しで借金ペースが落ちる 「投資を回収できるのか」という疑問が強まれば、企業が投資のペースを落とし、社債の発行も減る可能性がある
- シナリオ3:インフレが落ち着き、金利が全体に下がる 原油高が収まりインフレが鈍れば、FRBの利上げが止まり、国債も社債も金利が下がる方向に向かう
どのシナリオでも言えるのは、金利を動かすスイッチが、中央銀行だけでなく「誰がどれだけお金を借りたがっているか」にもあるということだ。AIのニュースを見るときは、技術の話だけでなく「そのお金はどこから来ているのか」にも目を向けてみると、ニュースの見え方が少し変わると思う。
💡 補足
・「ハイパースケーラー」は、巨大なデータセンターを運営するアマゾン、マイクロソフト、グーグル(アルファベット)、メタ、オラクルなどの大手IT企業のこと
・「投資適格社債」は、格付け会社から一定以上の信用格付け(BBB以上)を受けた社債。それより低い格付けの社債は「ハイイールド債」や「ジャンク債」と呼ばれる
・社債は満期まで持てば額面で償還されるが、発行した会社が破綻すると元本が戻らないリスクがある
・国債費は、国債の元本の返済(債務償還費)と利息の支払い(利払い費)などを合わせたもの
📊 加藤智也の分析メモ
AIというと「すごい技術」の話ばかりになりがちだけど、その裏では史上最大級の借金が積み上がっている。お金を借りる会社が増えれば、金利は下がりにくくなる。そして金利が上がれば、住宅ローンを抱える私の家計にも、国の予算にも跳ね返ってくる。AIブームは株価だけでなく、金利を通じて私たちの生活にもつながっていると感じた。高い利回りの社債を見たときは、まず「なぜこんなに高いのか」を考えるクセをつけておきたい。
※本記事は報道・公表資料をもとにした2026年10月1日時点の情報提供を目的としており、特定の銘柄・社債・金融商品への投資を推奨するものではありません。社債には発行体の信用リスクや金利変動リスクがあります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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