9月18日、96歳のウォーレン・バフェット氏がバークシャー・ハサウェイの会長職を退任し、名誉会長になるというニュースを見た。株主への手紙の中で「Father Time always wins(時の流れには誰も勝てない)」と書いていたのが印象的だった。ただ、これは単なる「息子への世代交代」という話では終わらない、よく考えられた継承の設計だと感じたので、今日はその中身を整理してみたい。
34歳で倒産寸前の繊維工場を買収、61年で時価総額1兆ドル企業に
バフェット氏は1965年、34歳のときに経営難だったニューイングランドの繊維工場バークシャー・ハサウェイを買収した。そこから61年かけて、時価総額1兆ドル、従業員約40万人、昨年の営業利益445億ドルという巨大企業に育て上げた。バフェット氏の在任中の年平均リターンは19.7%で、S&P500(平均リターンはその約半分)を大きく上回り続けてきたというのだから、あらためて数字で見ると規格外だ。
経営権は変わらない。継承されたのは「文化」だった
今回の発表で個人的に一番面白いと思ったのは、経営の実権と、精神的な支柱としての役割を意図的に分けている点だ。CEOは2025年5月の年次株主総会ですでに発表されており、2026年からグレッグ・エイベル氏が担っている。今回退任するのはあくまで「会長」のポジションで、そこに長男のハワード・バフェット氏(71)が就く。バフェット氏は株主への手紙でこう表現していた。「グレッグが会社を経営し、ハワードはその文化と価値観を守る。ハワードのことは、株主が保有しながらも、決して使わずに済むことを願う”保険”のような存在だと思ってほしい」。経営のバトンはすでにエイベル氏に渡っており、ハワード氏の役割は「バークシャーらしさが壊れそうになったときの最後の歯止め」という、いわば保険的なポジションということになる。
ハワード・バフェット氏はどんな人物か
ハワード氏は法執行機関や慈善活動でのキャリアを持ち、コカ・コーラ、ファースティア・フィナンシャル、旧コナグラ・フーズ(現コナグラ・ブランズ)など複数の大企業で取締役を歴任してきた人物だ。バークシャーの取締役としても33年の経験を持つという。単に創業家の長男だから会長になった、というわけではなく、企業統治の実務経験を積んできた人物が、あえて「経営はしない会長」として据えられているという構図が興味深い。
96歳でも現役だった投資家
もう一つ印象的だったのが、バフェット氏が引退間際まで現役の投資家であり続けたという事実だ。7月のインタビューで、6月にバークシャーが実施したアルファベット(Google親会社)への100億ドル規模の株式購入は、バフェット氏自身が主導したものだったと明かしている。この投資によって、アルファベットはアップル、アメリカン・エキスプレスに次ぐバークシャーの第3位の保有株になったという。会長職を退く直前まで、大型投資の意思決定に自ら関わっていたというのは、率直にすごいことだと思う。
2026年のバークシャー株は苦戦中、エイベル体制の正念場
一方で、現実はそう甘くない。2026年のバークシャー株は年初来でわずか1%程度の上昇にとどまっており、同期間に11%超上昇したS&P500に大きく見劣りしている。原油高や、投資家がより成長性の高い銘柄を選好している地合いが背景にあるとされるが、株主の間では「エイベル氏がバフェット氏ほど巧みに、3,655億ドルという巨額の手元資金を活用できるのか」という視線が向けられている。エイベル氏はすでに自社株買いを強化しており、直近の四半期だけで45億ドルを投じたという。経営のバトンは渡ったが、その手腕が本当の意味で試されるのはこれからだ。
投資家目線:バフェット氏から実際に学んだこと
自分はバークシャー・ハサウェイの株は保有していないが、投資を始めた頃にバフェット氏の考え方に触れたことが、今の投資スタイルに影響を与えている実感がある。「自分が理解できるビジネスに投資する」「短期の値動きに一喜一憂せず長期で持ち続ける」という、当たり前のようでいて実践するのは意外と難しい姿勢を、意識するようになったきっかけの一つだった。保有銘柄で言うと、自分もアップル(AAPL)を長期保有しているが、これはバークシャーにとっても長年の最大級の保有株だ。同じ銘柄を、世界最高の投資家と(規模はまったく違うが)同じ発想で持ち続けているというのは、地味に励みになる部分がある。
まとめ
今回の会長交代は、単なる「創業者から息子へ」という世代交代ではなく、経営の実権(エイベル氏)と企業文化の守護者(ハワード氏)を意図的に分離した、よく考えられた継承の設計だと感じた。96歳まで現役の投資家であり続けたバフェット氏の姿勢と、地味だが実践し続けることの難しい投資哲学。派手さはないが、長く効いてくる教えだと思う。
💡 補足
・バークシャー・ハサウェイは保険事業を中核に、鉄道・エネルギー・製造業から株式投資まで幅広く手がける複合企業(コングロマリット)
・「名誉会長(chairman emeritus)」は経営の意思決定権を持たないが、取締役として会社に関わり続ける名誉職的なポジション
📊 加藤智也の分析メモ
「経営」と「文化の継承」をあえて別の人間に担わせるという設計は、日本企業の事業承継ではあまり見ない発想だと感じた。カリスマ創業者の会社ほど「創業者イズム」が属人化しがちだが、バークシャーは仕組みとして分離しようとしている。この視点は、自分が仕事や家計管理で「属人化させない仕組み」を考えるときにも参考になりそうだと思った。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の企業・銘柄への投資を推奨するものではありません。企業情報や財務数値は2026年9月時点で報道されている内容に基づいており、今後変更される可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。


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