9月18日、日銀が政策金利を1.0%から1.25%に引き上げた。ニュースを見て真っ先に思ったのは「借金してる人は大変になって、貯金してる人は得をする」という、誰でも分かる話だった。でも、それだけで終わらせるのはもったいない気がした。この利上げ、実はもっと先まで連鎖していく。今日はその「その先」を、自分の生活や保有株と照らし合わせながら考えてみたい。
3カ月ぶりの利上げ、実は「前倒し」だった
日銀は6月の会合で政策金利を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げた後、7月は据え置きを選んだ。この時点では「次の利上げは秋口か年末か」というゆったりした空気だったらしい。それが一変したのが夏場だ。7月下旬にドル円が一時163円台まで円安に振れ、日米共同とみられる円買い介入が入った。円安を起点とした輸入物価の上昇で、企業物価は前年比7%台の高止まりが続いた。そこにアメリカのベッセント財務長官が、日本の財政拡張姿勢への牽制と円安是正の金融政策対応を繰り返し求める発言を重ねてきた。国内でも日銀審議委員から「一定のペースにとらわれず機動的に利上げを行う新たな局面」という発言が相次ぎ、結果として「秋口か年末か」だった利上げが9月に前倒しされた。2024年3月のマイナス金利解除以降、半年から1年に1回程度だった利上げペースが、3カ月に縮まったことになる。
①家計への連鎖:住宅ローンと「持ち家組」の憂鬱
自分は数年前に住宅ローンを変動金利で組んだ側の人間なので、この話は正直他人事ではない。変動金利は短期プライムレートに連動するため、政策金利が上がれば、いずれ返済額に跳ね返ってくる可能性がある。仮に3,000万円のローン残高で金利が0.25%上がると、返済期間にもよるが年間の利息負担は数万円単位で増える計算になる。一件あたりは大した額に見えなくても、これから住宅購入を考えている人にとっては「借りられる金額の上限が下がる」という形で効いてくる。住宅ローン審査は返済負担率で判定されることが多いため、金利が上がるほど同じ年収で借りられる金額は目減りする。結果として、新築・中古を問わず住宅需要にブレーキがかかり、不動産価格の伸びが鈍化していく——というのが、家計から始まる最初の連鎖だ。
②企業への連鎖:淘汰される会社、耐える会社
企業にとっても借入コストの上昇は無視できない。特に、超低金利の時代に借金でなんとか事業を回していた、いわゆる「ゾンビ企業」にとっては大きな打撃になる。金利が上がれば利払い負担が増え、収益力の低い企業から淘汰が進んでいく可能性がある。一方で、体力のある企業やキャッシュを潤沢に持つ企業は、多少の金利上昇では設備投資の手を緩めない。結果として、企業間の「勝ち組・負け組」の差がこれまで以上にはっきりしてくるはずだ。これは株式投資をする側からすると、実はチャンスでもある。金利上昇局面でも収益体質がしっかりしている企業を見極める視点が、これまで以上に重要になってくる。
③銀行への連鎖:金利が上がると銀行は儲かるという意外な構図
個人的に一番面白いと思ったのがこの部分だ。金利が上がると家計や企業は苦しくなる一方で、銀行は逆に儲かりやすくなる。銀行のビジネスモデルは、預金者に低い金利を払い、企業や個人への貸し出しでより高い金利を得る「利ざや」で成り立っている。政策金利が上がれば、この利ざやが広がりやすくなるため、メガバンクや地銀の収益にはむしろ追い風になる。自分は三菱UFJ(8306)と三井住友FG(8316)を保有しているが、今回のニュースを見てまず頭に浮かんだのはこの銘柄たちの顔だった。米国でもバンク・オブ・アメリカ(BAC)を保有しているので、日米どちらの利上げ局面でも、銀行株というレイヤーで恩恵を受けられる可能性があると考えると、少し気が楽になる。
④為替・輸出企業への連鎖:円高というもう一つの顔
金利が上がるということは、理屈のうえでは日米の金利差が縮まる方向に働く。金利差縮小の観測が強まれば、円高圧力がかかりやすくなる。円高は輸入物価を抑える効果がある一方、トヨタのような輸出企業にとっては、海外で稼いだ利益を円に換算したときに目減りするというマイナス材料になる。自分はトヨタ(7203)を保有しているので、この点は素直に気になるところだ。ただし、円高は海外旅行や輸入品の価格には追い風になるため、「輸出企業には逆風、生活者には追い風」という、立場によって受け止め方が変わる話でもある。
⑤国の財政への連鎖:利払い費というブーメラン
もう一つ忘れてはいけないのが、政府自身も日本最大の「借り手」だという点だ。金利が上がれば、国債の利払い費も増えていく。以前この場で「長期金利が3%を超えた」という話を書いたが、金利上昇は結局、政府の財政運営にも跳ね返ってくる。日銀の利上げは物価の上振れリスクに対応するための判断だが、それが回り回って財政の重荷を増やし、「本当に財政を立て直せるのか」という市場の不信感につながっていく——という構造は、覚えておいて損はないと思う。
投資家目線:自分はこの連鎖のどこに立っているか
今回改めて感じたのは、自分は「住宅ローンを抱える家計」「銀行株の保有者」「輸出企業の株主」「債券ETF(HYG・JNK・IGIB・VCIT)の保有者」という、複数の立場を同時に抱えているということだ。金利が上がれば住宅ローン当事者としては苦しく、銀行株主としては嬉しく、トヨタ株主としては為替が気になり、債券ETF保有者としては価格下落が気になる。一つのニュースが、自分のポートフォリオの中で得する部分と損する部分を同時に作り出している。だからこそ、「金利が上がった」というニュース一つをどこか一方向だけで受け止めるのではなく、自分がどの立場に一番強く晒されているかを意識しておくことが大事だと感じた。
まとめ
「金利が上がると借金は重く、貯金は得をする」——これは誰でも分かる話だ。でも実際には、そこから家計・企業・銀行・為替・国の財政まで、幾重にも連鎖が広がっていく。今回の利上げも、この連鎖のどこかが自分の生活やポートフォリオに直接触れてくるはずだ。ニュースの一次情報だけで終わらせず、「その先に何が起きるか」まで想像してみると、投資家としての景色が少し変わってくる気がする。
💡 補足
・「利ざや」とは、銀行が貸し出しで得る金利と、預金者に支払う金利の差のこと。政策金利が上がるほど、この差が広がりやすくなり銀行の収益に有利に働く
・変動金利の住宅ローンは、多くの銀行で「短期プライムレート」に連動しており、政策金利の変化が半年〜1年程度のタイムラグを経て返済額に反映される仕組みになっている
📊 加藤智也の分析メモ
「金利が上がった」というニュース一つで、自分のポートフォリオの中に得する部分と損する部分が同時に生まれるというのは、今回改めて整理してみて初めて実感できた。住宅ローンを抱えながら銀行株も持っている、というのは矛盾しているようで、実はどちらの目線も持てているという意味では悪くないバランスなのかもしれないと感じた。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の政策や金融商品・銘柄への投資を推奨するものではありません。金融政策や経済指標に関する内容は2026年9月時点の情報に基づいており、今後変更される可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。


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