飛行機の中でモバイルバッテリーが煙を出したり、火が出たりするトラブルが増えている。米連邦航空局(FAA)によると、2024年に確認されたリチウム電池の発煙・発火などは89件で、前年より16%増えた。うち77件は旅客機の中で起きている。週に1回以上のペースだ。
日本でも2025年7月8日から、モバイルバッテリーの機内ルールが厳しくなった。座席の上の収納棚に入れてはいけない、充電するときは様子が見える場所で、というものだ。私も旅行のときはいつもモバイルバッテリーを持っていくので、このニュースは他人ごとではなかった。
ただ、このニュースを調べているうちに、別のことが気になり始めた。いま世界の空を飛んでいる飛行機は、平均すると過去いちばん「古い」らしい。そして、飛行機が古くなるほど儲かる会社がある。今回はその話を整理してみた。
まず、飛行機は危なくなったのか
週に1回以上と聞くとドキッとする。でも、世界の航空会社が飛ばしている便は年に約4,000万便ある。仮に電池のトラブルが年100件あったとしても、1便あたりの確率は約0.00025%。4万便に1回どころか、40万便に1回という計算になる。
もちろん、ゼロではないからこそルールが厳しくなった。日本のルール変更のきっかけは、2025年1月に韓国の金海空港でエアプサンの機体が燃えた事故で、原因としてモバイルバッテリーが指摘されている。対象はJAL・ANAを含む国内のすべての航空会社だ。
| 2025年7月8日からの日本のルール | 内容 |
|---|---|
| 収納棚に入れない | モバイルバッテリーは座席の上の収納棚に入れず、手元で持つ |
| 見える場所で充電 | モバイルバッテリーからスマホなどへの充電、機内電源からモバイルバッテリーへの充電は、常に様子が確認できる場所で行う |
それでも空の旅がこれだけ安全なのは、何十年もかけて安全装置や部品の改良が積み重ねられてきたからだ。そして、その「部品」の世界で、いま面白いことが起きている。
世界の飛行機は、平均15.2年で過去いちばん古い
国際航空運送協会(IATA)によると、世界の航空機の平均機齢は15.2年で、過去最高になった。理由は単純で、新しい飛行機が届かないからだ。
- 注文に対して届いていない機体は、少なくとも5,300機
- 注文の残り(受注残)は1万7,000機を超え、いま飛んでいる機体の6割近くに当たる
- 機体はできても、エンジンが間に合わずに駐機されたままの新造機もある
- 部品の供給不足で、航空会社が負担したコストは2025年に少なくとも110億ドル
新しい飛行機が来ないなら、航空会社は古い飛行機を長く飛ばすしかない。古い飛行機は、整備も部品の交換も多く必要になる。ここに、儲かる会社と苦しい会社の分かれ道がある。
儲かる側:古い飛行機の「交換部品」を売る会社
アメリカのトランスダイム・グループ(ティッカー:TDG)は、一般の乗客はまず名前を聞かない会社だ。でも、シートベルト、ポンプ、バルブ、操縦系の部品など、飛行機の小さいけれど欠かせない部品を幅広く作っていて、ほとんどの民間機・軍用機に使われている。
2025年度(2025年9月期)の売上高は88億3,100万ドル。そのうち約55%は、飛行機を作るときではなく、飛んでいる飛行機の交換部品(アフターマーケット)から生まれている。民間機の交換部品だけでも売上の約32%だ。一度採用されれば、その飛行機が飛び続ける何十年もの間、部品が売れ続ける。
日本で同じ構図が見えるのが、IHI(7013)だ。社名には造船の名残があるけれど、いまの稼ぎ頭は航空・宇宙・防衛で、全社の営業利益の7割超をこの部門が稼いでいると報じられている。2026年3月期の全社の営業利益は1,655億円で、前の期より15.3%増えた。
IHIは民間機のジェットエンジンの部品を作っていて、エンジン事業の収入の約6割がスペアパーツ(交換部品)だという。エンジンは売ったら終わりではなく、整備のたびに部品が売れる。古い飛行機が長く飛ぶほど、この「ストック型」の収入が積み上がっていく。
苦しい側:新しい飛行機の「内装」に頼る会社
反対に、新しい飛行機が届かないと困る会社もある。東京・立川に本社を置くジャムコは、ボーイング機の化粧室(ラバトリー)で世界シェア約50%を持つ航空機内装の大手だった。
ただ、化粧室やギャレー(機内の調理設備)は、主に新しい飛行機を作るときに取り付けるものだ。ボーイングの生産が滞ると、その影響をまともに受ける。ジャムコは2025年7月、米投資ファンドのベインキャピタルの傘下に入り、上場廃止になった。日本経済新聞によると、財務を立て直して供給力を高めるのが狙いだという。
| 比べてみると | 交換部品が強い会社 | 新造機の部品が中心の会社 |
|---|---|---|
| 例 | トランスダイム、IHI(エンジン部品) | ジャムコ(化粧室・ギャレー) |
| 新しい飛行機が届かないと | 古い機体が長く飛ぶ → 交換部品が売れる | 取り付ける機体が減る → 売上が伸びにくい |
| 収入の性格 | 飛び続ける限り続く「ストック型」 | 機体が売れたときの「一回きり」が多い |
同じ「飛行機の部品の会社」でも、新しい飛行機を作るときに稼ぐのか、飛んでいる飛行機から稼ぐのかで、いまの業績はまったく違う。
加藤智也の視点:前に書いた記事の「答え合わせ」
実は以前、ジェットエンジンを作る会社の記事で、「乗客が増える→航空会社が新型機を発注する→エンジンメーカーが儲かる」という一本道の構図を書いた。旅行の需要が伸びているのは、今も変わらない。
でも今回調べてみて、その一本道の途中に大きな渋滞があることが分かった。新型機の注文は山ほどあるのに、作るのが追いつかない。その結果、儲けが「新しい飛行機を作る側」より「古い飛行機を飛ばし続ける側」に流れている。需要が強いことと、どこにお金が落ちるかは、別の話だった。
私のポートフォリオで航空に関係しているのは、シンガポール航空の少額保有だけだ。航空会社にとっては、新しい燃費のいい飛行機が来ないことは燃料代や整備費の負担につながるので、追い風ばかりではない。一方で、旅行の需要そのものは強い。航空会社の株を持つなら、新しい機体がいつ届くのかにも目を向けておきたいと思った。
旅行の楽しみ方については、空港ラウンジを使ってみたプライオリティパスの記事にも書いている。
この先どうなる? 考えられる3つのシナリオ
シナリオ1:納入の遅れが続く
エンジンや部品の不足がすぐに解消しなければ、古い機体が長く飛び続け、交換部品を売る会社の追い風が続く
シナリオ2:新しい飛行機の生産が回復する
ボーイングやエアバスの生産が軌道に乗れば、新造機向けの部品や内装の会社が息を吹き返す。古い機体の引退が進めば、交換部品の伸びは少し落ち着く
シナリオ3:旅行の需要が冷え込む
景気が悪くなって飛ぶ便が減れば、飛行時間に比例して売れる交換部品にも影響が出る。どちらの会社にとっても逆風になる
モバイルバッテリーのニュースを見て「飛行機は危ないのか」と思ったところから、「古い飛行機ほど儲かる会社がある」というところまで来てしまった。ニュースは、少し視点をずらすと投資のヒントになることがある。
💡 補足
・「機齢」は、飛行機が製造されてからの年数のこと。機齢が上がるほど、点検や部品交換の頻度が増える
・「アフターマーケット」は、製品を売ったあとの交換部品や整備などの市場。飛行機やエンジンでは、新品を売るときより利益率が高いことが多いと言われる
・トランスダイムの会計年度は9月末で終わるため、2025年度は2024年10月〜2025年9月
・ジャムコは上場廃止になっているため、現在は株式市場で売買できない
・FAAの件数は確認・報告された件数で、実際にはもっと多い可能性があるとされる
📊 加藤智也の分析メモ
「需要が強い業界なら、関係する会社はみんな儲かる」と思いがちだけど、今回はそうではなかった。同じ航空業界の部品メーカーでも、新しい飛行機を作るときに稼ぐ会社は苦しみ、飛んでいる飛行機から稼ぐ会社は伸びている。お金がどこで止まり、どこに流れているのかを見ることが大事だと改めて感じた。旅行に行くときは、モバイルバッテリーを手元に置きながら、窓の外の翼の部品のことも少し考えてしまいそうだ。
※本記事は2026年10月3日時点の報道・各社の公表資料・業界団体の資料をもとにした情報提供を目的としており、特定の銘柄・金融商品への投資を推奨するものではありません。株価や業績の見通しは変動する可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。機内のルールは航空会社によって異なる場合があるため、搭乗前に各社の案内をご確認ください。


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