メガバンクも、もうあぐらをかいていられない時代らしい。

2026年8月26日、三菱UFJ銀行が「エムット Excellent Club」という富裕層向けの新しい会員組織を発表した。ニュースを見た瞬間、「またすごいのが出てきたな」と思ったのだが、内容を追いかけていくと、単なる富裕層優遇サービスの話では終わらない。むしろ狙っているのは、私たちのような「気づいたら資産が増えていた」層なんじゃないか、という話をしたい。
エムット Excellent Clubの中身
まず制度の概要から。対象になるのは、三菱UFJ銀行に預けている預金・投資信託などの残高が3,000万円以上、または資産運用残高が1,000万円以上の個人。入会金・年会費は無料で、開始は2027年3月からとされている。
目玉は「エムット Excellent Club カード プラチナ アメリカン・エキスプレス・カード」。本人カードも家族カードも永年無料で、預け入れ残高に応じてポイント還元率は最大1.6%まで上がる。加えて、リロクラブと提携した「クラブオフ」で、全国20万種類のグルメ・ホテル・旅行優待も使えるらしい。専門家へのオンライン相談や店舗の優先予約といった特典も一通り揃っている。
正直、年会費が普通なら数万円するプラチナカードが無料でついてくるのは、条件を満たせる人からすればかなり美味しい話だ。
そしてもう一つ、地味に衝撃的なのが入会の方式だ。自分から申し込むのではなく、条件を満たした顧客に銀行側から招待が届き、辞退しない限り自動的に会員になる「オプトアウト方式」を採用している。これにより会員数は最終的に75万人以上、預かり残高は50兆円以上になる見込みだという。銀行側は「気づいたら会員になっていた」を仕組みとして最初から設計しているわけだ。
銀行の裏の狙い
なぜここまでの好条件を出すのか。UFJの個人顧客のうち、この対象者はわずか2%。しかしこの2%が、UFJ全体の預かり資産の半分近くを占めているという。この数字を見れば、銀行がここに全力を注ぐ理由は明白だ。
さらに言えば、富裕層は金融リテラシーが高いぶん、インフレ環境では現金を寝かせておかず、株式などのリスク資産にどんどん資金を移していく。銀行からすれば、それは預金の流出そのものだ。だからこそ、特典やサービスで「現金をここに置いておいた方が得」という状況を作り、資金を引き止めておきたい。理財ビジネス(資産運用のアドバイスや商品提案で稼ぐビジネス)で稼ぐには、その元手となる現金がまず銀行に置かれている必要がある、というわけだ。
加えて発表では、デジタル相続プラットフォーム「エムットそうぞく」の提供も予定されている。富裕層の資産は、いずれ相続というかたちで動く。その入口も自行で握っておきたいという意図が透けて見える。
本当のターゲットは「いつの間にか富裕層」
ここからが今回一番おもしろいと思ったポイントだ。
富裕層と聞くと、多くの人は開業医や地主、不動産オーナーといった「昔からのお金持ち」をイメージすると思う。しかし野村総合研究所の推計によると、日本の富裕層(純金融資産1億円以上)は約150万世帯規模とされ、その1〜2割は「いつの間にか富裕層」と呼ばれる人たちだという。
これは、特別な相続や不動産収入があったわけではなく、会社員として働きながら、持株会・確定拠出年金・NISAなどをコツコツ活用して資産形成を続けた結果、気づけば富裕層の水準に達していた人たちのことだ。給料をもらって、それを株や投資信託にまわし続けていたら、いつの間にかそこに到達していた、というパターンである。
そしてこの層の厄介な(銀行にとっては「もったいない」)ところは、資産規模はすでに富裕層クラスなのに、銀行との付き合い方はマス層とほとんど変わらないという点だ。専用の担当者もつかず、特別なサービスも受けず、普通の預金口座として扱われている。
入会ハードルが「3,000万円」に設定されているのは、この絶妙なラインを狙っているからではないか、と個人的には思っている。伝統的な富裕層はもちろん、この「いつの間にか富裕層」と、その予備軍までまとめて招待の網にかけられる水準に見えるからだ。
自分はまだ対象外だけど
正直に言うと、自分は今のところこのクラブに招待される資産規模にはまったく届いていない。ただ、NISAやiDeCoでコツコツ積み立てを続けていて、「いつの間にか富裕層」という言葉を読んだときに、他人事とは思えない感覚があった。
もし将来、順調に資産が増えて、こういう特典やサービスが自分の生活にちゃんとフィットするタイミングが来たら、前向きに入会したいなとは思う。今はまだ「見ている側」だけど、資産形成を続けるモチベーションが一つ増えた、というくらいの距離感でこのニュースを受け止めている。
「いつの間にか富裕層」まであとどれくらいか、自分で試算してみる
せっかくなので、自分の場合で具体的に試算してみることにした。先日の記事で公開した通り、自分のNISA口座の資産残高は現在402万8,490円。エムット Excellent Clubの入会ラインは預金・投資信託などの残高3,000万円、または資産運用残高1,000万円なので、NISA一つを取ってもまだ遠い数字だ。
ただ、月10万円の積立を今のペースで続けて年率5%程度で運用できたと仮定すると、資産運用残高1,000万円のラインには十数年で届く計算になる。もちろん相場次第でこの通りにいく保証はどこにもないが、「いつの間にか富裕層」という言葉が、まったくの他人事とは思えなくなってくる数字ではある。
他のメガバンクも追随してくるはず
三井住友銀行やみずほ銀行にも、すでに富裕層向けのサービスは存在する。ただ今回のUFJの規模感(75万人・50兆円)とオプトアウト方式による囲い込みの強さを見ると、他行も指をくわえて見ているわけにはいかないだろう。今後、同じような「気づいたら会員」型のサービス拡充が各行で進んでいく可能性は高いと見ている。
まとめ
「富裕層向けサービス」と聞くと自分には関係ない話に思えるかもしれない。でも今回の主役は、開業医でも地主でもなく、給料をコツコツ資産に変えてきた普通の会社員かもしれない、というのが今回一番伝えたかったことだ。
「いつの間にか富裕層」は、案外あなたの隣の席の同僚かもしれないし、数年後の自分かもしれない。
💡 銘柄・企業の補足
三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は日本のメガバンク最大手で、三菱UFJ銀行・三菱UFJ信託銀行・三菱UFJニコス・三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを傘下に持つ。今回の「エムット Excellent Club」も、初年度は銀行単独の会員組織だが、次年度以降は信託・証券・デジタルバンクなどグループ各社が参画し、グループ全体の預かり残高基準に拡大される予定になっている。
📊 加藤智也の分析メモ
実は自分は三菱UFJ(8306)を100株、三井住友FG(8316)を100株、それぞれ保有している株主でもある。三菱UFJは取得単価1,819円から現在3,620円まで上昇し含み益は+18万100円(+99%)、三井住友FGは取得単価4,142円から6,830円まで上昇し含み益+26万8,800円(+65%)と、どちらも大きく含み益が乗っている状態だ。今回の施策は預金流出を防ぐ守りの一手であると同時に、カード事業(三菱UFJニコス)やクラブオフの提携先送客など、周辺ビジネスを広げる攻めの一手にも見える。株主目線で見ても、このオプトアウト方式による囲い込みは、今後の他行の追随含めて業界全体の収益構造に効いてきそうだと感じている。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融機関のサービス利用を推奨するものではありません。「エムット Excellent Club」は2027年3月開始予定のサービスであり、内容は今後変更される可能性があります。実際の利用にあたっては三菱UFJ銀行の最新情報を必ずご確認ください。


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