富裕層ビジネス激化。獲得と囲い込みに力を注ぐメガバンク

富裕層ビジネス激化。獲得と囲い込みに力を注ぐメガバンク - 加藤智也ノートのアイキャッチ画像 マクロ・資産防衛

メガバンク3行がそろって、同じ方向を向き始めている。

三菱UFJ銀行が2026年8月26日に発表した富裕層向け会員組織「エムット Excellent Club」は大きな話題になったが、実はこれは単独の動きではない。三井住友フィナンシャルグループは超富裕層向けの営業チームを約400人体制へと倍増、みずほフィナンシャルグループも営業担当者を5割増やし、プライベートウェルスマネジメント(PWM)部門を新設する。三菱UFJはすでに超富裕層向け体制を2,500人規模へと倍増させている。

メガバンク各行がここまで足並みをそろえて富裕層・超富裕層の獲得競争に本腰を入れているのには、明確な背景がある。今回はその構造を、金利上昇局面という視点も交えて掘り下げてみたい。

背景1:金利のある世界が戻ってきた

まず押さえておきたいのが金利環境の変化だ。日銀の政策金利は現在1.00%で、2026年9月17〜18日の金融政策決定会合では追加利上げの観測が強まっている。市場関係者の間では、2027年春までに1.75%、その後最終的に2.5%程度まで上昇していくという見方も出ている。

長らく「金利がほぼゼロ」だった日本では、預金をどの銀行に置いても大差がなかった。しかし金利のある世界に戻ると話は変わってくる。預金金利の差、運用商品の利回りの差が、実際の手取りに響くようになる。実際に三菱UFJ銀行は2026年2月から円普通預金金利を0.20%から0.30%へ引き上げるなど、メガバンク各行で預金金利の見直しが進んでいる。

資産規模が大きい富裕層ほど、この金利差・利回り差の影響額は大きくなる。「どの銀行に資産を置くか」が、これまで以上に重要な選択になりつつあるということだ。銀行側からすれば、この局面で顧客をつなぎとめておかないと、預金がより条件の良い先へ流出していくリスクが高まる。

背景2:富裕層の増加と資産の偏在

もう一つの背景が、富裕層そのものの増加だ。野村総合研究所の推計によれば、純金融資産5億円以上を持つ「超富裕層」は2023年時点で約12万世帯。これは2019年比で約40%増という伸び方をしている。富裕層全体(純金融資産1億円以上)で見ても150万世帯規模に達している。

株高や円安による資産価値の押し上げ、退職金の運用、NISA・確定拠出年金などの制度を活用した資産形成など、要因は複合的だが、いずれにせよ「上位層の資産がより厚くなる」流れが続いている。三菱UFJの場合、個人顧客の上位2%が預かり資産全体の半分近くを占めるとされており、この偏在ぶりが銀行の戦略を大きく規定している。

限られた上位顧客が資産の大部分を握っているのであれば、その顧客を逃さないことが、経営全体の収益に直結する。これが各行が一斉に体制強化に動いている根本の理由だ。

3行それぞれの具体策

同じ「富裕層獲得」でも、各行のアプローチにはそれぞれ色がある。

三菱UFJは「エムット Excellent Club」で、条件を満たした顧客に招待を送り、辞退しない限り自動的に会員になる「オプトアウト方式」を採用。年会費無料のプラチナカードなど分かりやすい特典で、最終的に75万人以上・50兆円規模の囲い込みを狙う、量で攻めるアプローチだ。

三井住友は、三井住友信託銀行のプライベートバンキング部門を軸に、信託銀行ならではの「金融・不動産・信託」の3機能を組み合わせた総合提案を強みにしている。営業チームを倍増させ、より手厚い個別対応の体制を敷く方向に見える。

みずほは、総資産30億円超の世帯を専門に担当する「ウェルスアドバイザリー部」に加え、みずほ証券にPWM部を新設。新宿にアドバイザリーハブを設け、渋谷・新宿・池袋の営業員約250人を集約する体制改革を進めている。スイスの老舗プライベートバンクとの提携も進めており、海外の運用ノウハウを取り込む動きも特徴的だ。

量で攻めるUFJ、総合力で攻める三井住友、専門特化で攻めるみずほ、と整理すると各行の戦略の違いが見えてくる。

なぜ今、囲い込みが経営戦略の核になるのか

背景にあるのは、銀行の収益構造そのものの変化だ。低金利時代、銀行は貸出だけでは十分な利ざやを稼げず、資産運用のアドバイスや商品提案、信託、相続関連といった手数料ビジネスへの依存を強めてきた。この手数料ビジネスは、顧客一人当たりの資産規模が大きいほど収益効率が良い。だからこそ富裕層・超富裕層の獲得は、銀行にとって「量」よりも「質」で稼ぐための生命線になっている。

さらに金利上昇局面に入ったことで、預金という原資そのものの価値も見直されている。運用や貸出の元手となる預金を、より多く・より安定的に確保しておきたいという動機が、ここに重なってくる。手数料ビジネスと預金確保、この二つの狙いが同時に働いているからこそ、各行はこれほどのスピードで体制を拡充しているのだと考えられる。

株主としての視点

自分は三菱UFJ・三井住友FGの株を保有している立場でもある。今回の一連の動きは、短期的にはシステム投資や人員増強でコストがかさむ話ではあるが、中長期で見れば手数料収益の底上げにつながる布石だと捉えている。特に金利上昇局面が続けば、預金という原資を多く抱える銀行ほど有利に働く可能性があり、今回の囲い込み競争はその備えとしても理にかなっているように見える。

まとめ

これまで銀行選びの基準は、店舗の近さやATMの使いやすさといった利便性が中心だった。しかし金利のある世界に戻り、富裕層獲得競争が激化する中で、今後は「どれだけ有利な条件・特典を提示してくれるか」という基準で銀行を選ぶ時代に変わっていくのかもしれない。メガバンク3行の動きは、その入口を象徴する出来事と言えそうだ。

💡 銘柄・企業の補足

プライベートウェルスマネジメント(PWM)とは、富裕層・超富裕層向けに、資産運用だけでなく相続・事業承継・税務対策なども含めて包括的にサポートする金融サービスの総称。みずほ証券が新設するPWM部は、この機能をみずほグループ内で強化する狙いを持つ組織で、2026年10月以降の稼働が予定されている。

📊 加藤智也の分析メモ

今回改めて調べて感じたのは、3行の戦略の違いがそのまま各行の強み(UFJ=リテール基盤の広さ、三井住友=信託機能、みずほ=証券・海外提携)を反映しているという点。どの銀行の株を持つかによって、この富裕層争奪戦の恩恵の受け方も変わってきそうなので、今後の各行の決算での手数料収益の伸びは注視していきたい。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融機関や金融商品の利用を推奨するものではありません。金利動向の見通しは執筆時点(2026年9月)のものであり、実際の日銀の金融政策や各行のサービス内容は今後変更される可能性があります。投資判断は自己責任で行ってください。

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