2026年10月の制度変更まとめでも触れたけど、2026年10月から「106万円の壁が撤廃された」というニュースをよく見かけるけど、正確に中身を見ていくと、ちょっと違う印象を受けた。なくなったのは「月額賃金8.8万円(年収換算106万円)」という賃金の要件だけで、それ以外の要件——週の所定労働時間20時間以上、雇用期間2ヶ月超の見込み、学生でないこと、勤務先が従業員51人以上の会社であること——はそのまま残っている。つまり実質的に、社会保険に入るかどうかの分かれ目は「年収がいくらか」から「週20時間働くかどうか」に完全に移った、というのが今回の一番大事なポイントだと思う。
「壁」は収入額ではなく労働時間になった
これまでは、週20時間以上働いていても、時給が低くて年収が106万円に届かなければ社会保険には入らなくてよかった。ところが2026年10月以降は、収入がいくら低くても、週20時間以上・2ヶ月超の勤務見込みがあれば加入義務が発生する。逆に言えば、週19時間台に労働時間を抑えている限りは、収入がいくらであっても対象外のままだ。
手取りはどう変わる?試算してみた
ここが一番気になるところだと思うので、時給1,200円・東京都・40歳未満(介護保険料なし)という条件で、週の労働時間ごとに手取りがどう変わるか試算してみた。社会保険料は、厚生年金保険料率18.3%+協会けんぽの健康保険料率(目安)を労使折半した本人負担分をベースにし、新規加入者向けの軽減措置(1〜2年目は本人負担が本来の50%から25%に軽減)を反映している。
| 週の労働時間 | 月収(額面) | 加入区分 | 手取り(1〜2年目・軽減あり) |
|---|---|---|---|
| 19時間 | 98,724円 | 加入なし | 98,724円 |
| 20時間(壁) | 103,920円 | 加入 | 約96,600円 |
| 21時間 | 109,116円 | 加入 | 約101,400円 |
| 22時間 | 114,312円 | 加入 | 約106,250円 |
| 25時間 | 129,900円 | 加入 | 約120,750円 |
19時間から20時間に増やした瞬間、労働時間も収入も増えているのに手取りは減るという”逆転現象”が起きる。ただ、そこからさらに働く時間を増やしていくと、22時間あたりで19時間のときの手取り(98,724円)を上回る。軽減措置がある1〜2年目は、思ったより早く”元が取れる”というのが試算してみた実感だ。
ただし、この軽減措置は3年目に37.5%、4年目以降は本来の50%まで段階的に縮小していく。本則の保険料率がフルにかかるようになると、同じ計算で回復ラインは週23時間あたりまで後ろ倒しになる。つまり「壁を超えて数年は身軽だけど、年数が経つほど”元を取る”のに必要な労働時間が伸びていく」という設計になっている。
※あくまで時給1,200円・東京都・40歳未満という条件でのシンプルな概算です。実際の保険料率は都道府県・年齢・会社によって異なるので、目安として見てほしい。
130万円の壁は残ったまま
今回撤廃されたのはあくまで「106万円の壁」で、配偶者の扶養から外れる基準となる「130万円の壁」は存続している。従業員51人未満の会社で働く人は、引き続き年収130万円を意識する必要がある。また2026年4月からは、130万円の判定方法が「労働契約書に記載された年収見込みベース」に変わる予定なので、これも合わせて覚えておきたい。
加入することのメリットも忘れずに
保険料の負担増ばかりが注目されがちだけど、社会保険に加入すると、将来受け取る厚生年金が上乗せされるほか、病気やケガで働けなくなったときの傷病手当金、出産時の出産手当金といった保障も新たに受けられるようになる。負担が増える分、いざというときのセーフティネットも広がる、という両面で見ておきたい。
企業側にも助成金がある
労働者の手取り減少を和らげるため、企業側が使える「短時間労働者労働時間延長支援コース」という助成金もある(2025年7月新設)。従業員の週の所定労働時間を延長するなどの取り組みを行うと、1人あたり最大75万円(中小企業は最大60万円)が支給される仕組みだ。会社によっては、この助成金を使って手当を上乗せしてくれるケースもあるかもしれないので、気になる人は勤務先に確認してみるのもいいと思う。
結局、残っている「壁」は何か
2025年度以降の税制改正も踏まえると、今のところ意識しておきたいラインはこんな感じだ。
- 住民税:およそ93万〜110万円(自治体により異なる)
- 所得税:123万円(旧103万円から引き上げ)
- 社会保険(130万円の壁):51人未満の会社で扶養に入っている場合
- 配偶者特別控除:150万円(満額)〜207万円超(消滅)
今後の税制改正でさらに数字が動く可能性もあるので、これはあくまで現時点の目安として見てほしい。
💡 補足
・協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに毎年見直されるため、実際の手取り額は上記の試算と多少ズレる。正確な金額を知りたい場合は、勤務先の給与担当や日本年金機構のシミュレーションを使うのが確実
・企業規模要件(現行51人以上)も将来的に段階的に縮小され、いずれは全企業に広がっていく方向性が示されている
📊 加藤智也の分析メモ
今回試算してみて一番の発見は、「壁を超えた直後は手取りが減るけど、2〜3時間多く働けば意外とすぐ回復する」ということだった。ただしそれは軽減措置がある間の話で、数年後にはこの”回復ライン”が後ろ倒しになる。目先の手取りだけでなく、3年後・4年後の負担も見据えて働き方を考えた方がいいと感じた。
「2026年10月の制度変更まとめ」シリーズでは、他にもこどもNISA完全ガイドを書いている。子育て世帯の家計にも関わるテーマなので、こちらもぜひ。
※本記事は厚生労働省・日本年金機構等の公表資料をもとにした情報提供およびシミュレーションを目的としており、正確な保険料額・手取り額を保証するものではありません。実際の金額は勤務先・お住まいの都道府県・年齢等により異なるため、詳細は社会保険労務士や勤務先にご確認ください。


コメント